KK岡野工業 代表社員 岡野雅行 4 2011:10:13:06:51:36
挑戦するから仕事はおもしろい 世界が驚嘆した金型技術の秘密
その4
「俺が言ってるのはさ、考えてみりゃ、全部当たり前のことのはずなんだよな。それができなくなってる連中が多いよ、今は。だってさ、親や学校がそれを教えねえんだもの。代わりに教えるのが損得勘定だよ。親なんかにしても、何かといちゃもんをつけてわざと給食費を払わなかったりするのもいんだろ? そんな親を見てるから、子どもだって、何でも損得で考えるようになっちまう」
「大企業だってそうだよ。損得ばっかり考えて義理とか筋を欠いたほうにいくから、どんどん国の力が衰退してる。こないだもな、外務省の人が来たから言ってやったんだよ」
日本の町工場がどんどんなくなっていく。コストの安さだけを追い求めて、海外に生産工場をどんどん出す。大企業は組み立て専門で、ゼロから部品を作る工場がなくなったら日本はどうなるのか。町工場がなくなったら日本はやっていけない。“技術立国・日本” というブランドを支えてきたのは、義理を守り、筋を通す “町工場のオヤジたち” だったからだ。
岡野氏の中では、日本の製造業は町工場が特別な地位を占めている。元締めの大企業→下請けの中小企業→孫請けの零細企業という流れの中で、鍵になる技術を開発し、メーカーに提供して高品質・大量生産を実現させているのは、「工房」 ともいうべき小さな町工場たちに他ならないからだ。
ドイツ、イタリア、フランス、スペインといった国々には、高級鞄や靴などの皮革製品に顕著なように、今でも町工場や工房を大事にする文化がある。職人の手による精密な仕事は製品の高品質を支え、これらの国々には世界的ブランドが少なくない。かつての日本にもあったその文化を、岡野氏は一身に体現している。.
失敗を恐れずに進むこと
「商売」 ではなく 「ビジネス」 と言葉が変換されるだけで、利益率・株価上昇率が最優先して考えられる。そのためには徹底的にムダを排除し、リスクコントロールを行い、必要最小限の負荷で最大限の効果を生み出すことが求められる。「でもよ、そこには失敗から学ぶってことがないんだよな」 ―― 岡野氏は、目先の利益にとらわれすぎず、失敗を恐れないことが 「商売」 をうまくやるコツだと語る。
「リスクを負わなけりゃ失敗もしないけど、ホンモノの成功にもつながらない。失敗ってのは考えようで、失敗するからこそ、そこから学ぶものだってあるんだ。注射針のときだって、鈴を作っているときにいろんな失敗をして、それをノウハウにしてきたからこそ開発できたってところもある。リスクヘッジだとか言ってるけど、みんながやっていることと同じようなことやって、商売が伸びていくわけないんだよ」
挑戦すれば異端児になる――。
挑戦しなければ、何も生まれない――。
岡野氏は語る。
「企業はさ、若いのにどんどん挑戦させなきゃいけないよ。間違っても異端児を見るような扱いをしちゃいけない。 若い人が伸びないのは、そのせいなんだから」。
失敗は、単なる失敗で終わることはない。人ができないことに挑み、そこで得られる貴重な経験なのだ。失敗という結果だけを見るのではなく、プロセスの途中に隠された将来のヒントを少しでも獲得してほしいと岡野氏は言う。それはどんな業種でも同様だ。失敗していない人が、ビッグチャンスをつかんだとしても、ノウハウを持っていなければ活かすことはできない。
岡野氏は 「他でできるものは俺のところに来るな」 とすら思っているという。そう豪語できるのも、過去の失敗のプロセスから山のようにノウハウを持っているからだ。自信があるのである。
6割できると思ったら受ける。残り4割は未知の世界――。岡野氏は77歳になった今でも、世界中の誰もが成し遂げられないことに挑戦を続けている。そして言うのだ。「だからこそ、仕事はおもしろいんじゃねえか」。
この一言に凝縮されたエッセンスを、世の経営者たちはどう感じ取るだろうか。
(インターネット記事 B-plus 引用)
KK岡野工業 代表社員岡野雅行 3 2011:10:12:06:36:15
挑戦するから仕事はおもしろい 世界が驚嘆した金型技術の秘密
その3
岡野氏の自信は、かつて若いころに作った小さな鈴に裏打ちされていた。一枚の金板をプレスで切り抜き、慎重に曲げて鈴にする。溶接は一切使わない。失敗に失敗を重ねて金型を完成させるだけで1年かかった。いまだに岡野氏の他にできる人が誰もいない技術である。
この経験が記憶から掘り起こされ、「この針も同じ要領で作れるんじゃないか?」 と考えたのだ。それからは研究に継ぐ研究を経て、ついに2005年の7月、テルモが 「ナノパス33」 を販売開始するにいたった。先に出た大学病院と町医者の喩えのとおり、町医者ならぬ “町工場” が、多くの糖尿病患者の人々を痛みから解放したのである。現在、「ナノパス33」 の生産累計はなんと5億本以上。さらに重要度が高まっている。
「だから、できないってハナから決めつけちゃダメなんだよ。挑戦しなくちゃな」。
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義理と人情が商売を支える
「でも仕事をする上で、挑戦だけを大事にするんじゃない。他にも大事なものがいっぱいある。それは義理と人情ってやつだよ。いいかい、あんたらもよく覚えておいてほしいんだが、義理ってのは大事にしなくちゃいけないよ」
岡野氏が義理の重要さを説くには理由があった。「ナノパス33」 を開発する以前の話だ。
1981年に登場したソニー製ウォークマン。そのガム型電池の製造を、あるバッテリー会社が請け負っていた。しかし、その会社はことケースの製造に関しては技術が十分ではなく、1000個に1つの割合で液漏れが起きるのが問題になっていた。何とかならないか・・・ 悩むバッテリー会社に、岡野氏の実力を知っていたソニーの担当者が岡野工業を紹介した。ケースの製造を任せてはどうかというのである。こうして、発注主が請け負い主に孫請け先を紹介するという珍しい関係が成立した。
岡野工業は、町工場にしては破格ともいえる大口仕事を手掛けることになった。ここで専門の会社を立てて本格的に下請け事業を始めようと考えるのが、世の多くの経営者の発想だろう。だが、岡野氏の発想は違った。――ウォークマンが市場に広がっていく間は注文が安定するだろう。しかし、製品が市場に出回りきったら、注文は下降線をたどるいっぽうになる。もちろん同種の製品も次々と開発されるはずだ。さて、どうするか――。
岡野氏は、一定の時間が過ぎた頃、友人の工場に下請けを依頼した。岡野氏がその業者にいくらで受けるか聞くと、友人は 「20円で受ける」 と言う。岡野氏は 「それじゃうちが儲けすぎになっちゃうから、22円は出すよ」 と上乗せをした。当然、その人情に感謝した業者は 「寝ずに頑張ります」 と意気込んだ。
「こんな会社、ないと思わないか? あっちが20円でやるって言うのに、わざわざ一割も上乗せして自分のところの利益を薄くしなくたって良さそうなもんだ。だけど、商売って、そうじゃないだろ? 売上があがりゃいいってもんじゃないんだ。義理とか人情とか、そういうもんを忘れちゃいけないんだよな」
だが、人間は変わっていくもので、岡野氏とその業者のつながりを引き裂こうとする動きが現れ始めた。業者はその動きに乗ってしまい、バッテリー会社と直接取引を始めた。しかも、受注を失いたくないがために22円より安く見積もりを出し、岡野工業を通していたときよりも少ない実入りで手掛けることになってしまった。
「損して得とれじゃないけどさ、そこで俺を通せば安くはならずに済んだんだよ。俺はさ、今までこっちからいくらでやれなんて言ったことは一度もないんだ。相手がやれる値段を言ってきて、高かったら他へ回すけど、そうじゃなけりゃそこへ出す。でも、どっちにしたって俺を間に入れておけば、うちから出していたころの金額より下がるなんてことはなかったはずだ。義理より欲に走っちまった結果ってやつだね」
ブランド力を磨け
岡野氏の考え方としては、そこにブランドというものが大きく関わっている。
「お歳暮だってそうだろ? 三越だ高島屋だというような、老舗の百貨店の包みで来たら 『おっ、そんだけうちを大事に思ってくれてるんだな』 って思うだろうよ。だけど、そこらの安売りの店の包装紙だったらどう思うよ? ブランドってのはさ、それがあるとないのとじゃ大違いで、技術力でつかんだブランド力があるから、電池ケースだってうちに話が回ってきたんだ。それがなかったり、あると勘違いして直接やったってダメだよ。相手だって海千山千なんだから」
岡野氏が言うには、誰しもにキーマンが必ずおり、そのキーマンを通して商売をしたほうが成功しやすい。大きな取引先と組むには自分のブランド力への自負を持っていなければ対等な仕事はできず、それを持つ人を飛ばすことは得てして損をしやすいという。
(インターネット記事 B-plus 引用)