中国人と日本人1 2011:05:24:06:45:39
インターネットから配信される (Wisdom News 2011/5/23)WIS.314[by NEC]からの記事に面白い記事を見つけました。田中 信彦(たなか のぶひこ)という方が書いた文章です。中国人を理解するためには(日本人を理解するためには)大変わかりやすい文章だと思いました。長い文章なので3パートに分けて掲載します。興味のある方は読んでください。
パート1
執筆者 : 田中 信彦(たなか のぶひこ)
中国・上海在住。1983年早稲田大学政治経済学部卒。毎日新聞記者を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、大手カジュアルウェアチェーン中国事業などに参画。上海と東京を拠点に大手企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。著書に『人事・採用の基礎知識 中国編』(メディアファクトリー)、『中国で成功する人事 失敗する人事』(日本経済新聞社)、『日本人が知らない中国人の私的事情』(講談社)など。
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中国の友人からの義援金
東日本大震災の発生当日は東京にいた。中国移動の携帯電話が鳴ったのは、帰宅途上だった日本時間の午後9時過ぎである。
「いまどこだ?東京か?大丈夫か」。声の主は河南省の許昌という街でショッピングセンターを経営している友人だった。彼は私の無事を喜んだ後、「テレビを見ているが、大変なことだ。見ているだけで胸が苦しくなる。何かしなければならない。とりあえず義援金を送りたいから口座番号を教えてくれ」。こちらはまだ帰宅の路上で、被害の状況もよくわからない。義援金と言われてもどうしたものか見当もつかない。
「お前の銀行口座でいい。そこに振り込むから、とにかく早く被災者の人たちに渡してくれ」と彼は言う。「明日まで待ってくれ。しかるべき組織や団体を調べるから」と話して、その場は電話を切った。
再び電話が来たのは翌日朝9時過ぎである。「早く送金したいから、とにかく口座番号を教えてくれ」。とりあえず中国の銀行にある個人口座の番号を教えると、その日の午後に入金があった。金額を見て驚いた。100万元、日本円で1200万円以上である。
本当にありがたいことだが、これを被災地に届けるのは、実は意外と難題である。これだけの額になると日本円への両替は容易ではないので、どこか人民元で受け取ってくれる支援機関はないかとか、何かうまい送金の方法はとか、旧知の中国人会計士や銀行関係者などに聞いているうちに、彼からまた電話がかかってきた。
「状況はますますひどいようだ。いても立ってもいられない。追加で300万元ほど送るからよろしく頼む」。合計で400万元、約5000万円である。その日のうちにお金は振り込まれてきた。
電話すると、「困った時に助け合うのは人間として当たり前だ。四川省の地震の時にも日本の人たちに本当にお世話になった。とにかく早く何かしたい。お金の届け先も名義もお前に任せる。ただ中国にも被災地の人々に心から同情し、役に立ちたいと思っている人間がいることを伝えてほしい。それだけでいい」
思わず胸が詰まった。日本人でも5000万円出す人がどれだけいるだろうか。彼は個人的にも商売上も、日本との関係はほとんどない。知り合いの日本人は私しかいなかったのかもしれない。中国内陸の地方都市の一事業家がこれだけのことをする。中国人と付き合っていて、思わずしびれてしまうのはこういう時である。
「これは」という人間を信用し、任せる
このお金の送り主のことは、実は以前、この連載で書いたことがある。1年ほど前、連載の第20回「中国内陸市場の攻略法を考える」という文中で、河南省で偶然に出会って意気投合した「中国の流通業界で注目株の若手経営者」という人物を紹介した。その彼である。
実はその時以来、彼とは会っていない。だから、「友人」と書いたが、会ったのは1回だけである。その後、日本のマネジメント関係の資料を送ったり、メールのやりとりをしたりという関係はあったが、要は会ったのは一度、3時間ほど話をしたというだけである。それも、訪ねたのは飛び込みである。誰の紹介があったわけでもない。考えてみてほしい。突然、飛び込みでやってきて1回会っただけの外国人の個人口座に、5000万円振り込む人がいるだろうか? こういう真似は私にはできない。
ほどなく上海の日本総領事館が人民元建てで義援金を受け付ける口座を開設するとの情報が入ってきた。すぐに連絡して彼の気持ちを伝え、義援金を引き受けてもらった。総領事館の責任者も「個人でこれだけの金額は初めて」と驚いていた。
もちろんこれは彼の個人的な行為であって、これで中国人全体がどうこうと言えるわけではない。ただ、この連載でも過去に触れたように、中国人社会には、歴史的に国家や会社といった「組織」に頼れないぶん、困った時には個人どうしが助け合うという気風が根強くある。彼が中国国内の援助機関などを通じずに義援金を届けたいと考えたのも、おそらくそうした発想が根底にある。
そして、手前味噌で恐縮だが、自分が「これは」と見込んだ人間がいたら、細かいことは言わず、大胆に信用して、任せる。そういう腹の括り方をする。彼は中国人として、被災者に対して、「私はあなたたちのことを本当に心配しているんですよ」ということを、その場で行動で表さずにはいられなかったのだ。ここで動かずして何の人生か。それはお金よりも大事なことだったのである。まるで任侠の世界だが、それは確かに魅力的な中国人の生き方だと私は思う。
(Wisdom News 2011/5/23)WIS.314[by NEC]引用)
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