棲み分け理論 2009:05:22:06:11:38
先日、テレビで京都大学名誉教授の今西錦司さんの「棲み分け理論」について話していました。京都大学名誉教授の今西錦司さんは、1992年6月15日、90歳の生涯を閉じられましたが、山、探検、イワナ釣り、学問を混然一体として楽しみ、それぞれの世界でパイオニアの道を歩まれました。
「学問は人からではなく、自然から習うもの」と言うのが先生の持論でした。
この理論は、ダーウィンの進化論を知らないものはいませんが、今西学説と言われる「棲み分け理論」を知っている人は少ないと言われています。ダーウィンの進化論は、弱肉強食の論理です。 いつも競争し、勝ったものだけが生き残り進化してきたという、エコノミックアニマルと呼ばれた日本人に、最も影響を与えた理論です。このダーウィンの進化論と真っ向から対立する理論が、「棲み分け理論」です。
卒業後の無給講師時代、趣味である山や谷を歩きながら水生昆虫の観察を行ていました。渓流の石ころを一つ一つ転がしながら、カゲロウの幼虫の分化を調べ、それが画期的な「棲み分け理論」の発見を生みました。
渓流の流れを想像して下さい。両岸は流れが緩く、中心部は流れが早い。そうした渓流の一断画に様々な形態の川虫が住んでいます。流れの緩いところには砂が溜まっています。その砂の中には、潜るのに適した(尖った丈夫な頭の)形態をもつ、埋没型の川虫が住んでいます。流れの中では、糸のように細い足と泳ぎやすい流線形をした自由遊泳型の虫、流れの早い中心部では、石にしがみつく丈夫な足をもった潜伏型や吸盤を持った虫や流水の抵抗を少なくする平たい体をもっている虫がいます。
狭い渓流の中で多種多様な川虫たちが、隣り合わせで共存しながら進化してきました。あるものは、生きた生物を食べ、あるものは死んだ生物、あるいは落ち葉を食べて成長します。同じ場所で生きていくためには、競争することを避け、それぞれの住む場所を「棲み分け」ながら、その環境に適合するために外部形態を進化させてきています。
これを人間の社会に、当てはめると、ダーウィンの進化論は「弱肉強食の世界」であり、今西理論は「共生の世界」なのです。ここが、ダーウィン理論と決定的に違う点です。
21世紀は「共生の時代」だと言われています。人間の心の中にある「弱肉強食」の論理は、時代と少し違うのではないでしょうか。それに代わって、自然から教えられた「棲み分け」の論理、「共存、共生の論理」の視点に経つべきであると説明しています。
この「棲み分け理論」は、山岳渓流釣りを愛する人たちが、自然とどう共生すべきか、といった疑問を解決してくれる画期的な理論でもあると言われています。
ダーウィンの進化理論と言えば、『種の起源』に記されているように、自然淘汰説であり、適者生存説なのですが、それを証明する化石等の証拠は、何一つ得られていないといわれています。
今西氏の進化理論は、『棲み分け理論』と呼ばれるように、「進化とは、種社会の棲み分けの密度化であり、個体から始まるのではなく、種社会を構成している種・個体の全体が、変わるべきときがきたら、皆一斉に変わるのである」と言う表現に要約されています。
ダーウィンの進化理論が競争原理に基づいているのと比較して、今西氏のそれは共存原理に基づいていると解釈することが可能ですし、特徴だとも言えます。どちらが正しいかは、検証することができないので、決めつけることは出来ませんが、それぞれ違った進化理論として認めて行くのが、現状では妥当なのかと言われています。
政治の世界では、「小泉改革」の功罪が言われています。農耕民族である日本人にとっては、どうなんだろうと考えさせられます。
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